Story

測る・つくる・届ける。
生活に寄り添う伴走者として

営業担当・義肢装具士 Hさん

測る・つくる・届ける。生活に寄り添う伴走者として

病院やクリニックをまわりながら、患者さんや医師の声を聞き、一人ひとりに合った義肢装具を届けていく。
義肢装具士の資格を持つ営業担当・Hさんは、“もの”よりも“人”と向き合う仕事の中で、その人の「歩く」「暮らす」に寄り添っています。
明るく穏やかな口調で話すHさんのまわりには、自然と笑顔が生まれます。
患者さんの話を丁寧に聞き、医師やスタッフとのやり取りをつなぎながら、日々、現場を支えています。

肩のけがが教えてくれた、
「人を支える道具」の力

10代の頃、弓道で肩を大きく痛めたときに、初めて肩を固定する装具に支えられた経験がありました。Hさんは、その瞬間の感覚を今もはっきりと覚えています。

「けがをして、気持ちの整理もつかない時期に、病院で“肩外転装具”というものを使ったんです。装具をつけたら、痛みの不安が少し引いて、生活に“戻れる”感覚がありました。あ、道具が人を前に押し出すんだ、と実感しました」

工業高校で学びながら、「人の役に立てるものづくりがしたい」と考えるようになり、神戸医療福祉専門学校三田校の義肢装具士科へ進学。「基礎をきちんと身に付けたおかげで、現場で“なぜこの角度なのか” “なぜこの厚みが必要なのか”と考えるときの判断軸ができました」と語ります。
その4年間が、今の仕事の「土台」になったといいます。

「距離の近さ」が決め手。
人が見える職場へ

就職活動では、京都や兵庫の義肢装具会社を4社ほど見学しました。「大企業は分業が進んでいる分、“誰に聞けばいいか”がわかりにくい。一方で小規模な会社は、閉鎖的な雰囲気もあって。大井製作所はその中間でした」

専門学校の先生(同社OB)の紹介で見学した際、社内全体の明るさに惹かれたそうです。
「社長も工場の方も事務の方も話しやすくて、社内全体の空気が柔らかいんです。見学の時点で『ここで働きたいな』と思いました」

工場ではベテランも若手も同じフロアで声を掛け合う、そんな“距離の近さ”が、この会社の魅力だと感じたといいます。「相談しやすくて、誰もが“壁をつくらない”職場。誠実に悩んで、素直に助けを求められる環境です」と笑顔で話してくれました。

「売る」より「支える」。
歩みに寄り添う営業という仕事

営業部に所属しているHさんの仕事は、一般的な“営業”とは少し違います。
「私たちは医師の依頼に基づいて採寸/採型・納品・調整までを行う仕事です。医師や理学療法士と連携し、患者さんに必要なものを作るスタイルです」

得意分野は医療用インソールと小児の下肢装具。学校やクリニックを定期的に訪れ、成長や身体の変化を見ながら調整を重ねます。
「子どもは1年で足の形が変わります。“作って終わり”ではなく、前回との差を見ながら再調整する。わずかな1mmの差が“痛くない一歩”につながるので、慎重に判断します」

ときには診察中の会話から生活習慣を読み取り、体の癖に合わせてデザインを変えることもあるそうです。

「例えば足の使い方が偏っている子なら、歩くリズムそのものを意識してもらうよう装具を調整します。正しい形に“導く”より、“寄り添って導く”イメージですね」

叱って終わりではなく、
次へつなぐ現場

入社当初、患者対応で落ち込んだ時、先輩がすぐ同行してくれました。「一緒に謝ってくれて、“次にどうするか”を一緒に考えてくれた。その安心感は今も忘れません」
以降、仮合わせ・評価・再調整を自分の中でルール化し、迷ったら早めに相談するようにしています。「一度作って終わりではなく、身体の変化に合わせて何度も向き合う。だからこそ信頼が生まれるんです」

社内では症例共有勉強会が定期的に開かれ、義足・コルセット・インソールなどを持ち寄って学び合う文化も。年齢や職位を超えた対話が自然に行われることも、この会社の強みです。

「不得意な分野に関しては、詳しい先輩に教わります。わからないことを“わからない”と言える空気がある。助けを求めれば、誰かが必ず応えてくれる。だから新しい挑戦も怖くないんです」

「楽しい」があるから、
チームは強くなる

また大井製作所は、実はイベント好きな会社でもあります。「入社当時は先輩がバーベキューなどを主催していました。部署を越えて話せる場があると、仕事でも声をかけやすくなるんです」先輩の退職後も企画を引き継ぎ、交流を続けています。「楽しいから続く、続くから関係が強くなる。この循環を大切にしています」

ここ2年で後輩が3人入り、教える立場にもなりました。
「『なぜこの角度なんですか?』と聞かれて、自分の考えを整理できる。教えることで、自分の理解も深まります」。

今後は社内外の勉強会にも積極的に参加し、知識を広げたいと語ります。「自分の経験が後輩の糧になるなら、それも嬉しいことですから」

“手でものを作り、心で支える”仕事です

「義肢装具士の仕事は、手でものを作り、心で支える仕事です。図面どおりに加工する技術と、相手の話を丁寧に聴く姿勢。どちらか一方では届かない場面があります」

向いているのは、人と話すのが好きで、相手の“いつもの暮らし”を良くしたいと思える人。「真面目さは大切ですが、真面目“すぎて”固くならない柔らかさも必要です。『教えてください』と言える素直さが、成長の近道だと思います」

そして、少し照れくさそうに笑いました。「装具がぴたりと合って、患者さんの歩き方が変わった瞬間。その笑顔を見る時、この仕事をしていてよかったと感じます」
その言葉の奥に、静かな誇りと、確かな情熱がにじんでいました。

Your smile makes us happy.