Story

手で形をつくり、心で支える。
思いやりが生み出す“確かな一足”

義肢装具士 Kさん

手で形をつくり、心で支える。思いやりが生み出す“確かな一足”

義肢装具士として27年。
熊本県出身のKさんは、いま京都の工場で義手・義足、各種装具の製作・仕上げ・修理に携わっています。
「人の生活を支える“道具”を、自分の手で形にできる仕事」。静かな語り口の奥に、誠実な自負と、使い手への思いやりがにじみます。

医療に関わりたい、
でも「作ること」で支えたい

「もともと医療には関心がありました。ただ、患者さんと直接向き合う職種は、自分には責任が重いと感じて。専門学校で理学療法士などの学科もありましたが、“作ることが好き”を活かせる義肢装具士の道を選びました」

熊本で資格を取得後に就職し、結婚を機に京都へ移住。子育てが一段落した後、別の会社でパート勤務を経て、再び“製作の現場”に戻る決心をしました。「通勤のしやすさと、しっかり作り込める環境を重視してネットで探して、この会社に応募しました。見学してすぐ“ここで働きたい”と思いました。いま7年目です」

現在は義足を中心に、義手や装具まで広く担当。受注から納品まで一貫して携わる案件も多く、現場の反応を自分の目で確かめられるのがやりがいだと話します。

義足づくりは“二人三脚”の
チーム戦

製作は、医師の処方に基づいて営業担当の義肢装具士が採型し、工場でモデル修正→成形→仕上げへと進む流れ。通常は三人体制ですが、義足は二名で最初から最後まで担当するのが基本です。

「小さな手の装具なら2〜3時間でできますが、義足は数日かかることも。支える力が要る方にはベルトを増やしたり、長さやアライメントを変えたり、仕様で工数が大きく変わります」

Kさんは、必要に応じて営業も兼ねて来店対応・修理受付を行い、受注から仕上げ、納品まで見届けます。「分業だと伝言が増えますが、一貫して関わると微妙なニュアンスまで汲み取れる。完成時に“ありがとうございました”と直接言っていただけるのが何よりの喜びです」

“昨日より確かにうまくなる”

義肢装具の仕事は、コツコツとした積み上げの連続です。
「この仕事は、2〜3年では面白さが見えにくいと思います。焦らず続けるほど、手が覚え、判断が速くなってくる。去年は1時間かかった作業が、半年で30分、今は15分で終わることもあります。そういう小さな成長が励みです」
Kさんのモットーは、自分が楽しくやること、そして周囲の空気をよくすること。

「雰囲気が悪いと良いものは作れません。だから“今日はここまで”という小さな目標を置き、達成感を積み重ねていきます」

職場環境も、長く続けられる理由のひとつです。
「若い人が多く、女性が7割ほど。明るくて相談しやすい雰囲気です。有給も取りやすくなり、誰かが休んでも周りがフォローできる体制を整えています。インフルエンザなどで人が少ない時も、皆でカバーして乗り切りました」

わずかな調整が
翌日の痛みを軽くする

義足や装具の製作は、単に寸法どおりで終わりません。
「同じサイズでも、歩き癖や皮膚の状態、装着時間、生活動線で最適解が変わる。ベルトの本数や位置、スポンジの追加など、支える力を細かく調整します。仕上げの1ミリが、翌日の痛みや歩行の安定に直結します」

工程では、モデル修正での面の連続性、成形の温度管理、仕上げの端面処理など、目に見えない精度を積み重ねます。「“早さ”は品質の結果であって目的ではない。再現性の高い手順と、最後のひと手間が品質を決めます」

また、製造現場において必須の国家資格はありませんが、社内では技能検定(1・2級)取得を推進。「勤続3年以上のメンバーで勉強し、底上げしています。図面の読み替えや治具づくり、金属曲げの基礎もみんなで復習し、現場標準をそろえる意識です」

ハードルは下げて、
成功体験を積むべし

新入社員や若手には、段階的に仕事を任せます。
「義足は難しい印象があるので、まずは簡単なパートから。“これやってみる?”と声をかけ、短時間で終わる作業で手応えをつくる。成功体験が次の挑戦を呼びます」

現場での合言葉は「わからないを、言える」だとKさん。
「できなかった時は、次にどうするかを皆で考える。聞ける人がいれば聞き、いなければ自分で調べる。誰かが困っていたら声をかける。そういう思いやりが、良いチームをつくります」

部署間の壁も低く、営業と製造が一緒に段取りを見直したり、同じ施設を同行したりすることもあるそうです。伝達ロスを減らし、お客様に届くスピードと精度を上げる工夫を続けています。

これからも領域をひろげ、
安心を深めたい

27年の経験を重ねても、学びは尽きません。「飽き性なんです」と笑いつつも、目は真剣です。「まだ関わりが少ないインソール製作や、いまは仕上げが中心の金属フレームの組立(曲げの段階から)にも挑戦したい。領域をひろげるほど、提案の選択肢が増えてお客様の“安心”につながります」

そして、Kさんが大切にするのは“人としての信頼”。
「たまに自分の手に負えず他の人にお願いしたこともありますが、最後はチームで解を出せばいい。大事なのは、諦めずに手を動かすことです」

最後に、これからこの業界を目指す人へのメッセージをお願いしました。「2、3年や4、5年で“向いていない”と決めるのはもったいない。覚えることは多いけれど、長く続けて初めて見える景色があります。うちは若い人が多く、女性も活躍しています。変な緊張はいりません。思いやりを持って、みんなで成長していける職場です。焦らず、自分のペースで小さな目標を置き、達成感を積む。焦らず、自分のペースで楽しく続けてほしいです」

一つの製品の向こうに、一人の暮らしがあります。
Kさんの手は、その暮らしに確かな一足をもたらすために動き続けています。
経験と探究心、そして人への思いやり。その積み重ねが、職人の信頼を形にしています。

Share

Your smile makes us happy.